Fairy Tale エピローグ 2
結局、アスランたちが家へ帰ったのは、夜も深くなってからだった。
「お前、いい加減機嫌直せよ」
「ぐー」
「チーズやるから」
「ぐーうー」
それよりも、と、シンにぐいぐいと鼻先で押され、アスランは干草を積んだ寝床に突き飛ばされた。
「お前な・・・」
その意図を察して、ちいさく笑いながらため息をつく。
ルナたちに会った後は、いつもこれだ。
アスランの、可愛い恋人の、可愛い嫉妬。
「わかったから・・・こら、脱ぐから破くなよ」
シャツの裾を噛むシンをたしなめ、自分でそれを手早く脱ぎ捨てる。
あらわれた体は、治りきっても消えることのない、幾多の傷に覆われていた。
それを、シンは愛しげに舐める。
「くぅ、くぅ、くんー」
シンの大きな舌に舐められるのが、アスランは大好きだった。
彼に食べてもらいたいと、そう切望していた頃があった。
今は、こうして、舐められて。
時折軽く歯を立てられ、その先で愛撫され。
食べてしまいたいほどに好きだと、言葉でなく示される。それだけでもう、幸せだ。
「っ、あ・・・・」
ベルトを外せば、焦れたような牙にそれを引っ掛けられ、下ろされてしまった。
そうして、脚の間まで。丁寧に、丁寧に舐められる。
「は・・・・ぁ、シン・・・・・」
快感を与える意図で前を、入り口を慣らす意図で、後ろを。
こういうところだけ器用に舌を使うことを覚えたケルベロスは、いい匂いのする大好きな体を、丸ごと、自分の匂いに染めていく。
「あ・・・っん・・・・、シン、シン・・・・・」
アスランの腕が伸びて、脚の間に突っ込まれた、シンの頭を掻き抱いた。
毛皮の上を、滑る両腕。
時折、ぎゅっと抱きしめれくれるアスランの腕。
その幸せに、酔いしれる。
その上、今日はぴんと立てた耳に熱い吐息がかかったかと思うと、きゅうっと噛み付かれた。
ちょっと痛い。
でも、凄く気持ちいい。
お礼に、と、前に軽く歯を立てると、それはあっけなく弾けて、シンの舌に旨い体液をこぼしてくれた。
「んく。くるるる・・・・」
喉が鳴る。美味しい。
「こ・・・ら。シン・・・・」
また、耳を噛まれて。
でもすぐに、突き放すようにされて。
離しちゃ嫌だ、と、その体を押さえ込むために、前足をその白い胸に乗せる。
しかし、傷をつけないようにと加減されたそれを、アスランは簡単にかいくぐり、そうしてそのまま体を返した。
ことさら酷い傷跡の浮いた背中。
それを、思わずぺろりと舐めて。
それから、膝を立て、腰を浮かせたアスランの意図を察して喉を鳴らす。
入れていいって言ってるんだ。
「くぅーーーん」
自分でも情けないくらい、甘えた声が出た。
「そんな声で鳴くなよ・・・」
アスランの声に笑いが混じって、ちょっと恥ずかしくなった。
だから、誤魔化すように、その狭間をぺろぺろと舐める。
「んっ、あっ、あ、シン、もう、いいから・・・・」
でも、こっちの姿だと大きいんだ。
大事なアスランに傷を付けてしまったら、大変。
だからシンは、一生懸命そこを舐めて。
自分の大きな舌が入るくらいまで柔らかくしたそこに、ずっと我慢していたものを押し付けた。
そうすれば、自然とアスランの背中に圧し掛かるかたちになる。
そうしたら不意に、アスランは首を曲げて見上げてきて。
今度は体ごとよじって、シンの鼻先にキスしてくれた。
ああ、本当に。
俺、この人大好き。
「はあ。あっ、くぅっ・・・・・」
無理を強いていることはわかっている。
それでも、この姿でいる時の方が、こういった欲は止まらない。
今も、無理やりに押し広げられた中で、アスランの肉が悲鳴をあげていることがわかっても、止めようがない。
「あ、ああ・・・・っ、くっ、ふっ、うんんっ・・・・」
それでも、ほとんど悲鳴に近いアスランの声は、甘く濡れていて。
シンが動くたびに跳ね上がる腰は、貪欲にシンを食んでいた。
「くぅ」
アスランも、気持ちいいんだ。
そう思ったシンが笑ったとたん、アスランが身を震わせて、高い声を上げた。
「あっ、ああっ・・・・」
もともと、ひどくきついそこが、きゅうっと更に狭くなる。
出しちゃいたい、でももう少し、と我慢すると、不意に中の締め付けが優しくなった。
「あ・・・ぁ・・・・・」
あ、アスラン、俺より先にイっちゃった。
そう思うとやたらと嬉しくて。くったりとした体を、後ろからぺろぺろと舐める。
発情のいい匂いを放つ首筋に、鼻先を押し付ける。
「んっ・・・・こ、ら・・・・・」
アスランの抗議にも、力がない。
声がかすれて、甘い。
「くぅ」
「ああ。まだ・・・な？」
首をきゅうっと折り曲げて、自分を飲み込んでいる場所を覗くと、いっぱいに押し開かれたそこは、切れてこそいないけれど、真っ赤になって腫れている。
腫れて、熟れて。見ているそばで、きゅうきゅうとうごめいている。
「くふん」
健気でいやらしくて美味しくて、大好きな体。
大好きなアスラン。
「あっ、う・・・ふ、ぅぁン・・・・・」
たまらなくなって、また、中へ突き込みはじめる。
シンを包む肉。可愛い声。干草を掴んだ長い指が、複雑な形を作って、きゅうっと握られた。
気持ちいい。
シンはせっせと腰を使い、何度も何度もアスランをイかせて。
何度も何度も、愛しい体内に精を注ぎ込んで。
獣の交わりは、空が白み始めるまで、続いた。
大きな獣の毛皮の下で、アスランはぼんやりと目を覚ました。
腰が重い。
このサイズのシンとした後では、仕方がないのだけれど。
ああ、昨日は自分も少しやりすぎた。
別に後悔はしていないけれど。
「くぅ」
心配そうに鳴いたシンに、大丈夫だよ、とキスをしてやる。
彼の好きなように、両手で。
ぎゅっと、抱きしめてやる。
とたん、掴んでいた黒い毛並みが、するすると指をすり抜けて消えた。
月が欠けてきたせいだろう。今度は自分より幾分小さくなった恋人の背を、やはりぎゅっと抱いてやる。
獣のシンに抱かれる時は、自分よりもずっと大きな体と、あたたかな毛皮に安堵する。
そうして少年のシンと抱き合う時は、彼をいっぱいに抱きしめてあげる幸せに、時折、涙が出そうになった。
「えっと、大丈夫？」
「ああ。平気だよ」
「ごめん」
「謝ることじゃないだろう？その、俺も欲しがったんだし」
「・・・・うん」
もう、日は高くなっている。
起きなければと思うのだけれど、まだもう少し、互いのぬくもりの中、まどろんでいたい。
小屋の上で、木枝が風に揺れる、ざわざわという音がする。
その合い間をぬって、小川の音が心地良く流れる。
そうして、二人の心音が、ことことと。
大人しく抱かれていたシンが、不意に仰のいてアスランを見上げた。
赤い瞳が、笑って。
翠の瞳が、笑って。
そうして、やさしいキスをする。
もう、絶対離れない。
終